秘密保持契約書②

今回は、前回書きました、秘密保持契約書の各条項の詳細を、参考例とともに見ていきたいと思います。

なお、参考の契約書例として、経済産業省のホームページに掲載されている「秘密情報の保護ハンドブック~企業価値向上にむけて~(令和4年5月改訂版)」を使用させていただきました。

経済産業省のホームページには、そのほかにも営業秘密に関わる参考情報が多く掲載されていますので参考にしてみてくださいね。
営業秘密~営業秘密を守り活用する~ (METI/経済産業省)

それでは参考例とともに見ていきましょう。

目的

「目的」は、以下のように秘密保持契約書の「前文」に定めたり、目的条文として一つの条文として定めたりします。ピンクのマーカーの箇所に挿入します。秘密保持契約書の根幹ともいえる、大切な内容です。この目的以外で開示された情報には適用されないことになりますので、明確に、契約当事者がお互いに齟齬がない記載内容で定める必要があります。

【例】
□甲が乙に○○に関する業務を委託すること
□甲乙間での○○の売買取引

株式会社______(以下「甲」という。)と 株式会社______(以下「乙」という。)とは、 __________について検討するにあたり(以下「本取引」という。)、甲又は乙が相手方に開示する秘密情報の取扱いについて、以下のとおりの秘密保持契約(以下「本契約」という。)を締結する。

経済産業省 秘密情報の保護ハンドブック ~企業価値向上にむけて~(令和4年5月改訂版)

秘密情報の定義・秘密情報から除外されるケース

「秘密情報の定義」は第1項に定められていますが、できる限り具体的にするため、第2項で「別紙」でも定める形式になっています。実務上は「別紙」の更新などは煩雑になりますので、実際に秘密情報をやり取りする担当者が対応可能かどうか、確認してから定めた方が良いかもしれません。

また、第4項において、口頭での開示の場合には書面化が求められていますので、こちらも担当者において徹底できる範囲で内容を決めるべきでしょう。

「秘密情報から除外されるケース」は第1項の各号に定められています。これらは当たり前といえば当たり前なのですが、秘密保持契約書には確認のため入れるべきでしょう。

第1条(秘密情報)
1.本契約における「秘密情報」とは、甲又は乙が相手方に開示し、かつ開示の際に秘密である旨を明示した技術上又は営業上の情報、本契約の存在及び内容その他一切の情報をいう。ただし、開示を受けた当事者が書面によってその根拠を立証できる場合に限り、以下の情報は秘密情報の対象外とするものとする。
 ① 開示を受けたときに既に保有していた情報
 ② 開示を受けた後、秘密保持義務を負うことなく第三者から正当に入手した情報
 ③ 開示を受けた後、相手方から開示を受けた情報に関係なく独自に取得し、又は創出した情報
 ④ 開示を受けたときに既に公知であった情報
 ⑤ 開示を受けた後、自己の責めに帰し得ない事由により公知となった情報
2.前項本文の情報のうち、甲が乙に秘密である旨を指定して開示する情報は別紙1を、また乙が甲に秘密である旨を指定して開示する情報は別紙2を含むものとする。なお、別紙1及び別紙2は甲と乙とが協力し、常に最新の状態を保つべく適切に更新するものとする。
3.甲又は乙が口頭により相手方から開示を受けた情報については、改めて相手方から当該事項について記載した書面の交付を受けた場合に限り、相手方に対し本規程に定める義務を負うものとする。
4.口頭、映像その他その性質上秘密である旨の表示が困難な形態又は媒体により開示、提供された情報については、開示者が相手方に対し、秘密である旨を開示時に伝達し、かつ、当該開示後○日以内に当該秘密情報を記載した書面を秘密である旨の表示をして交付することにより、秘密情報とみなされるものとする。

経済産業省 秘密情報の保護ハンドブック ~企業価値向上にむけて~(令和4年5月改訂版)

秘密保持義務・目的外利用の禁止・漏洩などが起きた場合の義務

「秘密保持義務」は第1項①に定められています。

「目的外利用の禁止」は第1項②に定められています。この内容が抜けているひな型を提示してくる会社も結構ありますので、注意してチェックする必要があります。

「漏洩などが起きた場合の義務」は第1項④に定められています。きちんとリスク管理をするために必要です。

なお、第1項③の複製物の管理や同⑤の取扱責任者に関する書面による通知の対応については、実際に対応可能な内容か確認のうえ定める必要がありますので注意が必要です。

また、第2項のように、第三者に開示する場合には書面による事前承諾が必要であること、そのうえで第三者に開示する場合には秘密保持契約書と同等の守秘義務を負わせることを定めることも重要です。

第2条(秘密情報等の取扱い)
1.甲又は乙は、相手方から開示を受けた秘密情報及び秘密情報を含む記録媒体若しくは物件(複写物及び複製物を含む。以下「秘密情報等」という。)の取扱いについて、次の各号に定める事項を遵守するものとする。
 ① 情報取扱管理者を定め、相手方から開示された秘密情報等を、善良なる管理者としての注意義務をもって厳重に保管、管理する。
 ② 秘密情報等は、本取引の目的以外には使用しないものとする。
 ③ 秘密情報等を複製する場合には、本取引の目的の範囲内に限って行うものとし、その複製物は、原本と同等の保管、管理をする。また、複製物を作成した場合には、複製の時期、複製された記録媒体又は物件の名称を別紙のとおり記録し、相手方の求めに応じて、当該記録を開示する。
 ④ 漏えい、紛失、盗難、盗用等の事態が発生し、又はそのおそれがあることを知った場合は、直ちにその旨を相手方に書面をもって通知する。
  ⑤ 秘密情報の管理について、取扱責任者を定め、書面をもって取扱責任者の氏名及び連絡先を相手方に通知する。
2.甲又は乙は、次項に定める場合を除き、秘密情報等を第三者に開示する場合には、書面により相手方の事前承諾を得なければならない。この場合、甲又は乙は、当該第三者との間で本契約書と同等の義務を負わせ、これを遵守させる義務を負うものとする。
3.甲又は乙は、法令に基づき秘密情報等の開示が義務づけられた場合には、事前に相手方に通知し、開示につき可能な限り相手方の指示に従うものとする。

経済産業省 秘密情報の保護ハンドブック ~企業価値向上にむけて~(令和4年5月改訂版)

秘密情報の返還・破棄義務

「秘密情報の返還」については第1項に定められています。相手方の管理が不十分と判断した場合など、秘密情報の返還を請求できることを定めておくと安心です。

「秘密情報の破棄」については第2項に定められています。「返還」と異なり、「破棄・消去」は本当にされたかどうか確認が困難ですので、「書面」で破棄・消去した旨を確認することを定めたりします。

第3条(返還義務等)
1.本契約に基づき相手方から開示を受けた秘密情報を含む記録媒体、物件及びその複製物(以下「記録媒体等」という。)は、不要となった場合又は相手方の請求がある場合には、直ちに相手方に返還するものとする。
2.前項に定める場合において、秘密情報が自己の記録媒体等に含まれているときは、当該秘密情報を消去するとともに、消去した旨(自己の記録媒体等に秘密情報が含まれていないときは、その旨)を相手方に書面にて報告するものとする。

経済産業省 秘密情報の保護ハンドブック ~企業価値向上にむけて~(令和4年5月改訂版)

秘密保持期間・秘密保持契約書の期間

こちらの例では秘密保持契約書の期間のみを定める形式(秘密保持義務期間も同じとする)になっていますが、「秘密保持期間」と「秘密保持契約書の期間」を分けて定めることの方が多いかもしれません。なお、「秘密保持期間」「秘密保持契約書の期間」とは、以下の期間を指しており、異なります。

「秘密保持契約書の期間」=秘密情報を開示する期間=検討期間
「秘密保持期間」=秘密として取り扱わなければならない義務を負う期間

第5条(有効期限)
本契約の有効期限は、本契約の締結日から起算し、満○年間とする。期間満了後の○ヵ月前までに甲又は乙のいずれからも相手方に対する書面の通知がなければ、本契約は同一条件でさらに○年間継続するものとし、以後も同様とする。

経済産業省 秘密情報の保護ハンドブック ~企業価値向上にむけて~(令和4年5月改訂版)



☆以下3点は一般条項であり秘密保持条項特有の内容ではないので参考例のみ記載しておきます。

損害賠償

第4条(損害賠償等)
甲若しくは乙、甲若しくは乙の従業員若しくは元従業員又は第二条第二項の第三者が相手方の秘密情報等を開示するなど本契約の条項に違反した場合には、甲又は乙は、相手方が必要と認める措置を直ちに講ずるとともに、相手方に生じた損害を賠償しなければならない。

経済産業省 秘密情報の保護ハンドブック ~企業価値向上にむけて~(令和4年5月改訂版)

協議事項

第6条(協議事項)
本契約に定めのない事項について又は本契約に疑義が生じた場合は、協議の上解決する。

経済産業省 秘密情報の保護ハンドブック ~企業価値向上にむけて~(令和4年5月改訂版)

管轄裁判所

第7条(管轄)
本契約に関する紛争については○○地方(簡易)裁判所を第一審の専属管轄裁判所とする。

経済産業省 秘密情報の保護ハンドブック ~企業価値向上にむけて~(令和4年5月改訂版)


実態に合わせて内容を考える

上記で見てきた参考例はあくまで一例となります。

 ☑どのような場面で開示される・知り得る秘密情報なのか
 ☑どのように開示される・知り得る秘密情報なのか

などを考慮して、ケースバイケースで内容を考える必要があります。

自己(自社)の秘密情報を開示する必要があるけれど適切な内容が分からない、などご心配であれば、ぜひお気軽に当事務所にご相談ください。


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